名古屋地方裁判所 平成９年（わ）９６６号 判決 1997年10月14日
本籍
岐阜県本巣郡巣南町一七条八四九番地
住居
同所同番地
大工
加藤輝夫
昭和一六年一一月二五日生
本籍
岐阜県本巣郡巣南町一七条八四九番地
住居
同所同番地
会社員
加藤辰美
昭和四〇年一月三日生
右両名に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、次のとおり判決する（公判出席検査官西村尚芳、新河隆志、湯川毅。弁護士西野泰夫）
主文
被告人加藤輝夫を罰金三五〇万円に処する。
被告人加藤輝夫において右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。
被告人加藤辰美を懲役一〇月に処する。
被告人加藤辰美に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。
理由
（罪となるべき事実）
被告人加藤輝夫は、岐阜県本巣郡巣南町一七条八四九番地に居住し、自己の所有する土地を売却したもの、被告人加藤辰美は、被告人加藤輝夫から依頼されて同被告人の代理人としてその所得税の申告手続に従事したもの、分離前の相被告人松尾正信、坂本行徳こと坂本幸則及び小菅誠は、被告人加藤辰美から依頼されて被告人加藤輝夫の所得税の申告手続に関与したものであるが、被告人加藤辰美は、松尾正信、坂本幸則及び小菅誠と共謀の上、被告人加藤輝夫の所得税を免れようと企て、不動産の売却に伴う架空の取りまとめ料を計上するなどの方法により所得税を秘匿した上、被告人加藤輝夫の平成七年分の実際の総所得金額が二二一万一二〇〇円で、分離課税による長期所有土地にかかる譲渡所得の金額が六三三三万八〇〇〇円であったのに、平成八年三月一五日、岐阜市千石町一丁目四番地所在の所轄岐阜北税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が二二一万一二〇〇円、分離課税による長期所有土地にかかる譲渡所得の金額が九七八万円で、これに対する所得税額が二五四万六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告人加藤輝夫の正規の所得税額一七〇九万四六〇〇円と右申告税額との差額一四五五万四〇〇〇円を免れた（別紙修正損益計算書及び脱税額計算書参照）。
（証拠の標目）
括弧内の記号番号は、検察官請求証拠の記号番号（番号は記録上算用数字）である。検察官に対する供述調書は「検察官調書」と記載する。
一 被告人両名の当公判廷における各供述
一 被告人加藤輝夫の検察官調書二通（乙一、二）
一 被告人加藤辰美の検察官調書三通（乙七、八、九）
一 分離前の相被告人松尾正信の検察官調書二通（乙一二、一三）
一 坂本幸則（三通。甲一五ないし一七）及び小菅誠（甲二〇）の各検察官調書（各謄本）
一 森本拓美（甲一〇）、森さとみ（二通。甲一一、一二）及び中平雅昭（甲一三）の各検察官調書（各謄本）
一 大蔵事務官作成の査察官調査書五通（各謄本。甲二ないし六）及び脱税額計算書（甲二一）
一 岐阜北税務署長作成の証明書二通（各謄本。甲八、九）
（法令の適用）
被告人加藤輝夫の判示所為は所得税法第二四四条一項、二三八条一項に該当するので、その所定金額の範囲内で同被告人を罰金三五〇万円に処し、同被告人において右罰金を完納することができないときは、刑法一八条により金五万円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。
被告人加藤辰美の判示所為は所得税法二三八条一項、二四四条一項、刑法六〇条に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で同被告人を懲役一〇月に処し、同被告人に対し、情状により刑法二五条一項を適用して、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。
（量刑の理由）
本件は、実父である被告人加藤輝夫の代理人として、同被告人の税務申告を任された被告人加藤辰美が、自宅の新築資金や商品先物取引の資金等を捻出しようとして、脱税の請負等を業としていた共犯者の坂本幸則らと共謀して敢行した所得税法違反の事案であり、ほ脱額が多い上、ほ脱率も約八五パーセントと高率であり、その刑事責任は軽視できない。
他方、量刑上酌むべき点として、被告人加藤輝夫については、確定申告手続を被告人加藤辰美に一任していて、脱税工作に関与していないこと、右申告手続を一任していて自ら何ら確認することのなかったことを反省していること、ほ脱にかかる本件所得税について修正申告をしていることなどの事情があり、また、被告人加藤辰美については、取り上げるような前科がなく、自己の行為を率直に反省し、事後処理について誠意をもって当たることを誓約していることなどの、各事情がある。
こうした事情及び記録にあらわれたその他の諸事情を総合考慮して、主文のとおり判決する。
（裁判官 三宅俊一郎）
別紙 修正損益計算書
<省略>
<省略>
別紙
脱税額計算書
<省略>
税額の計算
<省略>